もすもすスープの暮らし

記述には時差があります。ゆるくイタリア語を学習しています。

スーザン・プライス A Sterkarm Tryst 読了!

ほぼ1か月かけてSusan Priceのスターカームの3巻目(A Sterkarm Tryst)を読了。

タイムトラベルの技術で21世紀の人間が16世紀に行ったり(ときには16世紀側から来たり)する本シリーズは、ジャンルとしてはSFであり、歴史ファンタジーであり、時を隔てた恋愛ものでもあるのだが、実際の読後感はいずれのジャンルにもそぐわない。

スタイリッシュさや、幻想、甘さはほとんどなく、まったく現実的な筋立てではないにもかかわらず、この物語をひっぱる力の主な源は(彼女の他の著作と同様)徹底したリアリズムだ。どんよりした灰色の荒野、土の匂い、脂をぬった槍のにぶい色、人馬の発する臭い、体の内側から激しく胸を叩く心臓の鼓動、汚物、血の感触。眼前に広がる16世紀スコットランドの光景は、まるで著者がその目で見て、そのまま文字に写しとったかのようだ。空駆けるファンタジーの爽快さはなく、密度のありすぎる空気が、登場人物たちと読者を重苦しく押し潰す。

この物語は、タイムトラベルの技術を開発した21世紀の人間が、石油や鉱物など地下資源が手付かずで残っている過去(16世紀)に行って、その時代の人間を手なずけながら資源を搾取しようと考えていたがうまくいかず、逆に手酷い目に会い(1巻)、仕切り直しをして、再度、同時代の同地域(ただし1巻で訪れたより以前の時点。1巻で訪れた世界を16世紀Aとし、2巻で訪れる世界を16世紀Bとする)へ行き、16世紀Bの人々を懐柔し、かつ、16世紀Bの人々を使って、16世紀Aへの復讐をもくろむ(2巻)というストーリー。

16世紀AとBはいわゆるパラレルワールドになっていて、当然、同じ人物が登場する。同じ一族であり、同じ家族であり、個人は同じ性格・性質である。しかし、それぞれ違うタイミングで21世紀側の人間と会い、違う経験を重ねていくので、AとBはまったく別の世界になり、人は同じ人物でありながら別の人生を歩み出す。

2巻は16世紀Bの人たちが(21世紀人に騙され)、16世紀Aの人たちを壊滅させに行く、というところで終わっていた。AにいるのもBにいるのも、そもそもは同じ人物なのだから、片方だけが21世紀人に味方され、21世紀の武器を手にして戦いを挑んだ場合、順当にいって、結果がどうなるかは、考えるまでもない。

しかし、勿論ここで順当にいってしまったら物語は一瞬で終わってしまうわけで、作者としては、何か順当にいかない筋書きを考えないといけない。どうやって、作者は16世紀Aの壊滅を阻止するのだろう? それが2巻を読み終わったときの、そして、3巻を読み始めたときの最大の関心だった。AとBはパラレルワールドであるものの、明らかに物語の重心はAにあり、Aが壊滅するはずはないのである。しかし、Aは槍に弓矢にナイフ、Bは拳銃やらロケットランチャーやらなんやら。どう考えてもAに勝ち目はない。

しかし、ページを繰っていくと、物語はあっさりと思ってもいないほうへ転がり出す。重きが置かれるのは、血を血で洗う戦闘ではなく、登場人物それぞれにふりかかる運命への苦悩だ。そして、またしても21世紀人はあっけなく退場していく。

 主人公のひとりであるPerのAとBとでの書き分けが素晴らしい。同じ人物でありながら、違う人物であり、でも、やはり同じ人物なのだ。2巻目(邦題:「500年の恋人」)でのPer(16世紀BのPer)は魅力薄だったが、3巻目ではBのPerは傷つき、影のある人物として描かれている。

 

邦訳は1巻、2巻は創元社文庫で出ていたが、もう絶版。3巻は出ないのかな…?