もすもすスープの暮らし

記述には時差があります。ゆるくイタリア語を学習しています。

心躍る!ジョン万次郎の青春の物語 HEART of a SAMURAI(邦題:ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂)読了!

アメリカの児童文学者、マーギー・プロイスによる、ジョン万次郎の物語。優れた児童文学に贈られるニューベリー・オナー賞を受賞(2011年)している。まったく期待していなかったのだが、とてもおもしろかった。ハラハラあり、ピンチあり、心の葛藤あり、初恋の痛みあり、成功あり、そして出会いと別れがあり、話はおさまるところへおさまり、読後感は非常にさわやか! だいたい万次郎がゴールドラッシュに沸くカリフォルニアに行き、あの、映像でよく見る、川に平たい皿を入れてザーラ・ザーラというのをやり、(おまけに)ちゃんと金をゲットできていたなんて知りもしなかった。

むかし日本人作家による子ども向けのジョン万次郎伝を読んだときは、「万次郎は数々の苦難に会いましたが、努力をして道が開け、とても立派な人になりました、マル」みたいな教科書的な展開に辟易したのだが、この“HEART of a SAMURAI”は、若々しく好奇心にあふれた万次郎の青春と冒険の物語になっている。ジョン万次郎がこんなに魅力的な人物だったとは! 

そして、予想もしていなかったのが、このジョン万次郎の物語が(というか、ジョン万次郎の人生が)、「非常に現代的」な物語であることだ(であるからこそ、ニュー・ベリー賞を受賞しているのだろうが)。

ジョン万次郎は、最初に救助されたアメリカの捕鯨船の中でも、アメリカに渡ったあとも、いわれのない差別やいじめを経験する(でもその他の多くは好人物ばかりだ)。物語の中で敵役として「大」活躍する船員のJollyは万次郎たち日本人のことを毛嫌いして、naked cannibals(裸の人食い野郎)、heathen(野蛮人) wretched pagan(惨めな異教徒)、 dirty spying Chinaman(薄汚いスパイ野郎)と、口汚く罵る。悪口というのは(芸でない限り)、たいがいにおいて語彙貧困。裸でもないのにnaked cannibals(裸の~)なんていうあたり、幼稚で、どの国でも「あるある」という感じである。

しかし、一方、万次郎と一緒に救出された日本人たちも、アメリカ人のことをbarbarians(野蛮人)と言い続ける。まだ外国人というものに遭遇したことがなく、「海の向こうには、自分たちとは違う野蛮人が住んでいるらしい」という話をそのまま信じていたときだけでなく、アメリカの船に救助され、食べ物と着る物を与えられ、親切にされたあとも、である。

捕鯨船がハワイのオワフに寄港し、万次郎と仲間の日本人が船を降りるとき、船長は、彼らが新生活を始めるにあたって困らないようにと、新しい服を一揃いと、それぞれにお金を与える。5人もいるのに、それぞれに。なんて親切!

でも、そんな直後でさえ、万次郎の年長の友人の五右衛門は万次郎に言う。

“You’re not really going to go with those barbarians, are you?”

(あいつら野蛮人といっしょに行っちゃうんじゃないよね?)

それに対して万次郎は、

“How can you still call them barbarians?”

(まだあの人たちのこと野蛮人だなんてよく呼べるね)と驚く。

そして、自由の国・アメリカの精神に触れ、貧しい漁師の子であっても何者にかなれる可能性があることに心をときめかし、未知の世界のぞいてみたいと思う万次郎に対して、同じ貧しい漁師の子である五右衛門は、自分自身がほぼ日本社会では最下層に位置するにもかかわらず、その社会こそが正しいのだと、万次郎をなじる。

“What’s that supposed to mean?” Goemon said, kicking at a stone.

“I think it means that we can do great things in our lives――things people will remember.”

“No, we can’t !”Goemon said. “We are just humble fishermen. Only big important people―― the shogun, the daimyo, maybe this captain―― they can do great things.”

“That’s what I used to think, too. Back home, I always knew that I would just be a fisherman. I never questioned it; I know we never asked ourselves what―― or who ――we wanted to become. Why should we? We always knew. But what if we could do important things, too? Captain Whitfield said that if I work very hard, someday I could become a captain of a ship!”

“That’s as stupid as when you said you were going to become a samurai ! ”Goemon said. “You shouldn’t want to be what you can’t be.”

なんともやりきれない五右衛門のセリフ。 “You shouldn’t want to be what you can’t be.”

目の前に新しい価値観、新しい世界が現れても、あくまでも自分たちが知っているものだけに固執し、新しいものを受け入れられない万次郎以外の仲間たち。自分がごく当たり前だと思っていた考えかた・文化・精神のようなものを自分で打ち壊すのがいかに難しいか(そして、万次郎のような人物にとってはいかに簡単か!)がわかる。五右衛門なんて万次郎同様、(しがみついている旧世界で)持っているものはとても少なかったのに! 捨てるのは簡単だったはずなのに、捨てられないのだ。

これは小学校中~中学生くらい向けに書かれた物語だと思うが、グローバルな世界で立ちすくんでいる大人にこそ読まれるべき物語かもしれない。

 

英語は難しくないので、高校生くらいだったら読めると思う。

 外国のひとが日本文化に触れるときの、安直な「サムライ」連呼があまり好きではなくて、昨年あたりこの本が評判になったときもスルーしていたが、Amazon Primeのお試し期間中に「タダなら…」と読んでみての大ヒット。自分の2018年の読書のベスト3には入る1冊になると思う。

 

日本語もある。やたら力強い表紙。

金原瑞人さんなので、きっと上手に訳しているんだと思う。